屋根のメッセージ

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 昨日、近畿地方も梅雨入りしました。雨の多いジトジトした季節はあまり好きではありませんが、今しっかりと雨が降らないと田んぼやダムがカラカラに干上がってしまいます。モンスーンアジア特有のこの気候を自然の恵みと思い込んで、雨の日も前向きに過ごしたいと思います。

 さて、そんな雨や日差しから人びとを守ってくれるのが屋根の役割です。写真は神戸にある「箱木家住宅」。箱木千年家の通称で知られる、日本最古と推定される民家です。一目見て気がつくのが大きな屋根ではないでしょうか。この住宅、もうほとんど屋根です。日本建築の歴史を遡ると、竪穴式住居と高床式倉庫という二つの祖先に辿り着きます。この箱木千年家を含めた民家と呼ばれる庶民の建築は竪穴式住居をルーツに持つと言われています。教科書で見たことがある方がほとんどだと思いますが、竪穴式住居は地面を掘って屋根を架けた、まさに屋根だけの建築です。つまり屋根が民家の始まりという訳です。

 屋根の勾配はいかに雨漏りしないようにするかを考えて決められました。現代では性能の良い屋根材や防水工法があるため、平らな屋根でも何も問題はありませんが、昔の屋根はそうは行きません。箱木千年家の茅葺き屋根の勾配もそのように、私たちのご先祖様たちが試行錯誤を繰り返して辿り着いた形なのです。とても長い歴史の中でこの屋根の形が民家に使われていると、私たちは屋根の形を見て「これは民家だな」と分かるようになります。これはつまり、屋根の形が「民家だよ」という意味を持ったということです。展望台から街を眺めたとき、大きなお寺の屋根を見つけて「お寺だな」と分かるのも同じことです。

 「厚木の家」ではその「民家だよ」という意味をあえて現代建築に持たせることが屋根の勾配を決めた理由のひとつです。雨や日差しから暮らしを守るという機能のためにつくられる屋根ですが、同時に建築がどういうタイプの建築かを意味するメッセージを発しているのです。こういう風に考えると建築って面白いですよね!

 他にも屋根が発するメッセージはありますが、それについてはまたの機会に書きたいと思います。

© Ikeda Hisashi Architects  2015-2018