母屋の裏手の丘へと続く小道をたどると、やがて少しひらけた平坦な土地に出会います。クライアントは、この場所に一人静かに過ごせる空間を求めました。見渡す景色は、母屋から池、山並み、そして大空へと広がり、木々のざわめきや柔らかな風が身体を包み込む、豊かな環境です。
既存の散策路は、母屋前から急勾配の山肌を斜めに登り、ヘアピンカーブを折り返してこの土地へと至ります。私はこのプロジェクトの主役は、建築ではなく環境そのものだと直感し、小道と周囲の自然への添え物としての建築を考えました。
建築の内部空間は散策途中に立ち寄る東屋、そして小道の終着点には見晴し台となる屋上が続く構想です。
平面は「のの字」型とし、外部に開かれた明るくオープンな空間と、緩やかなカーブの先に洞窟のように静かで包み込む空間を配置しました。これら異なる性格をもつ二つの空間は、やわらかな曲線で繋がり、その奥にはトップライトから自然光が差し込みます。
小道から続く階段を登ればそこは終着点の見晴し台です。鉄筋コンクリート造の打放し仕上げの建築は時の移ろいとともに、風化し燻んだ表情になるでしょう。しかし、この離れにとって自然との対話の中でゆっくりと姿を変えていくことはネガティブなことではありません。
自然と同化し数十年、数百年後にも、穏やかな魅力を放つ遺跡のような存在になってほしいと、シンプルでありながら強い空間性を持つ建築を目指しました。
2025年4月11日
アンビルト, 新築