大阪郊外の住宅地に建つ木造2階建ての住宅。敷地は1910年の京阪電鉄開通以降、宅地開発が進んだ丘陵地の中腹にあります。周囲は擁壁、塀、駐車場、庭、そしてそれらの背後に建つ古くからの住宅と、近年のミニ開発によって細分化された土地に建てられた住宅が入り交じる状況です。
プランを変形十字形とすることで、この建築は住宅地の空隙に顔を出すかたちとなります。敷地は庭や敷地境界沿いに植えられた樹木や丘陵地からの眺望を得られる環境であるため、町の隙間に広がる大空や周囲の緑を借景として取り入れることができ、実際の空間以上に大らかな広がりを持つ建築となりました。時折、2階のテラスでお食事をしたり、ビールを飲んだり、夕涼みをしたりと暮らしを楽しんでおられる様子の写真をクライアントが送ってくださいます。
建主は30代夫婦と子供1人の3人家族。住宅はリビングやダイニングといった主たる空間と個室群という構成で計画されることが慣習となっていて、そのことが住人の生活を一義的なものに押し込めてしまっているのではないでしょうか。住宅の持つ空間のヒエラルキーに疑いの目を向け、各室を大らかな関係で結ぶことを試みました。つまり1つの主たる空間プラス個室群という構成ではなく、1階と2階にそれぞれリビングをつくり空間を相対化させた絶対的な中心を持たない、空間秩序のタガが緩んだ「隙」のある住宅です。内部の空間ヒエラルキーの相対化によってテラスや庭といった囲われた外部空間、さらに寝室から見える町並みや遠方の景色でさえもタガの緩んだ秩序に組み込まれ、住宅地のささやかな家であっても自由で大らかな空気をまとった建築にしようと考えました。
施工:ハンワコーポレーション
撮影:杉野圭
2016年12月30日
戸建住宅, 新築