ビニールハウスの休憩所
長かった夏がようやく終わり、空気がすこし澄んできました。先日、家族で芋掘りに出かけたとき、思いがけず印象に残る「建築」に出会いました。 畑の一角にあった小さな休憩所。農業用のビニールハウスを転用しただけの簡素な構造ですが、近づいてみると、裾の防水シートが少しだけ巻き上げられ、内と外の関係が絶妙に調整されていました。 外を歩く人の視線は自然に遮られ、中で畳に座る人からは外の風景がほどよく眺められる。光はシート越しにやわらかく届き、風が心地よく通り抜ける。シンプルな素材とさりげない工夫の中に、人が安心して過ごせる秩序がありました。 親子連れが腰を下ろし、会話を楽しみながら過ごす。特別なデザインではないけれど、自然と人が集まり、穏やかな時間が流れています。そんな光景を見ていると、建築の本質は「人がそこにいたくなる場」をどうつくるかにあるような気がしました。 このビニールハウスには、設計者の名前も、図面もありません。けれど、内外の関係を調整する“さじ加減”には、人の感覚に寄り添った知恵が確かに働いていました。こうした無名の空間にこそ、建築の原点がひっそりと息づいているのだと思います。 日常の中に、ふと心に残る空間があります。持参したおにぎりを頬張りながら、そんな感覚を大切にしていきたいと思いました。