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大阪府茨木市を拠点に関西全域および全国各地で活動する一級建築士事務所です。
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家づくりの進め方

はじめて家を建てようと思っても、「何から始めればいいの?」という声をよく耳にします。ここでは、家づくりの全体の流れを、できるだけわかりやすくお話ししてみます。 1. 予算を立てる まずは、全体の予算を整理するところから始めましょう。 現在の収入から組める住宅ローンの額を調べ、親御さんからの援助があるかどうかも確認します。家づくりにかかるお金は、土地代や建設費だけでなく、設計料、引越し費用、税金、手数料などいろいろ。 おおまかな目安として、 * 土地:30〜50% * 建物:55〜65%   くらいのバランスが一般的です。 この割合を参考にしながら、立地や新築・リノベーションの方向性を考えていきます。 2. どんな暮らしをしたいか話し合う 「どんな家を建てたいか」というより、「どんな暮らしがしたいか」を考えてみましょう。家族で話しながら、好きな時間の過ごし方、これからの暮らしのイメージを共有します。 新築かリノベーションか、戸建てかマンションか、一番こだわりたいところはどこか。デザインの好みや家族構成の変化など、ライフプランとあわせて整理しておくと、このあとがとてもスムーズです。 3. 設計事務所を探す 土地や物件を探している最中に、設計事務所に相談できると心強いです。候補地を見ながら、「この土地にどんな建物が建てられそうか」「暮らし方に合うかどうか」などを一緒に考えてもらうことで、より前向きな選択ができます。気になる設計事務所があれば、まずは気軽に話を聞いてみましょう。 多くの事務所では無料相談を行っています。いくつか訪ねて、相性や雰囲気を感じてみるのが大切です。設計の考え方や進め方、スケジュールなどを聞いておくと、安心して一歩を踏み出せます。 4. 土地・物件を探す 新築の場合は土地を、リノベーションの場合は中古の物件を探します。同じ広さの土地でも、法律や規制によって建てられるボリュームや高さが変わることがあります。中古住宅の場合は、構造の状態や耐震性(1981年6月以降は新耐震基準)にも注意が必要です。マンションリノベーションでは、管理状況や共用部分の制約も確認しましょう。 設計事務所に相談することで、土地や建物の「可能性」を一緒に探ることができます。 「この土地で、どんな暮らしができそうか」「どんな空間が生まれそうか」といった前向きな視点で考えられるのは、専門家と動く大きなメリットです。 5. 土地先行融資ローンの検討 候補地が見えてきたら、土地を購入するための「土地融資ローン」を検討します。土地先行融資を利用する場合、銀行は「どんな建物が建つのか」を審査します。その際、図面や見積書、設計契約書などが必要になるため、設計事務所に延床面積や構造、概算費用をまとめた「建築概要書」を用意してもらうとスムーズです。 6. 土地・物件の購入 ローン審査に通過したら、いよいよ土地の売買契約です。購入する土地を担保にする場合は、司法書士が抵当権の登記を行います。登記が完了すれば、正式に土地の所有者となります。 7. 設計事務所に正式依頼 \\すでに土地をお持ちの方は、ここからがスタートです。// 土地や物件が決まったら、設計事務所に正式に依頼します。敷地測量図やご要望を伝え、ラフプランを作成してもらいましょう。気に入ったら設計契約を結び、本格的な設計へと進みます。 (詳しい設計の流れは「WORKFLOW」ページをご覧ください) 8. 住宅ローンの仮審査 建築の概要がまとまる「基本設計」が終わるころに、住宅ローンの仮審査を受けます。注文住宅の場合は、建売住宅と違って建物がまだ存在しないため、「つなぎ融資」が必要です。設計料をつなぎ融資に含められる場合もありますが、融資の実行は着工時。それまでの支払いは、自己資金でまかなうケースが多いです。 9. 実施設計・確認申請・見積もり 「実施設計」で細部を決め、設計事務所が建主の代理として確認申請を行います。同時に工務店(複数社に依頼する相見積もり、もしくは1社のみの特命見積もり)に見積もりを依頼し、予算に合わせて調整を行います。金額が確定したら、工務店と工事請負契約を結びます。 10. 住宅ローンの本審査 工事請負契約書・図面・確認済証などをそろえ、金融機関に本審査を申し込みます。この段階で、融資金額と返済条件が正式に決まります。 11. 着工 必要に応じて地鎮祭を行い、いよいよ工事が始まります。設計事務所は監理者として、図面どおりに工事が行われているかを見守ります。工事費の支払いは出来高に応じて3〜4回に分けて行うのが一般的です。 支払いのタイミングは、工事契約時に取り決めておきます。 12. 竣工・引き渡し・住宅ローン実行 施主検査、設計者検査、役所の完了検査を経て、建物が完成します。 その後、土地家屋調査士による「表示登記」、司法書士による「所有権保存登記」および「抵当権設定登記」を行い、住宅ローンの本融資が実行されます。つなぎ融資を利用していた場合は、この本融資で完済となります。 お金の流れの“タイミング”を知る 注文住宅の融資は「段階的」に行われます 注文住宅の場合、建物が完成してから初めて住宅ローンが実行されます。そのため、土地を購入したり、工事費を支払ったりするために、途中の期間をつなぐ「土地先行融資」や「つなぎ融資」という仕組みを使います。 ●土地先行融資(最初の一歩) まず土地を購入するときに、銀行から土地代だけを先に借りるのが「土地先行融資」です。この段階ではまだ建物が存在しないため、土地だけを担保に融資が行われます。抵当権も土地に設定されます。 ●つなぎ融資(工事期間中) 建物の工事が始まると、出来高に合わせて工務店へ支払いが発生します。しかし、住宅ローンは完成後にしか実行されないため、工事中は「つなぎ融資」でその都度、必要な分を借り入れます。たとえば、着工時・上棟時・竣工時の3回などに分けて支払います。 つなぎ融資の期間中は、元金ではなく利息のみを支払うのが一般的です。 ●住宅ローン(完成後の本融資) 建物が完成して登記が済むと、いよいよ住宅ローン(本融資)が実行されます。この資金で、それまでの土地先行融資とつなぎ融資をまとめて返済します。以後は通常の住宅ローンとして、毎月の返済が始まります。 注文住宅の特徴 建売住宅やマンションのように「完成品を購入」する場合は一括の住宅ローンで済みますが、注文住宅では「土地→設計→工事→完成」と時間をかけて進むため、このように段階的にお金を動かす仕組みが必要になります。仕組みを理解しておくと、無理のない資金計画が立てられます。 「家づくりの相談先」について、少しだけ本音を。 最近では、ショッピングモールなどに「住宅相談カウンター」があり、気軽に家づくりの相談ができるようになっています。初めての方にとっては身近で便利な存在ですが、私はあまりおすすめしていません。 こうしたカウンターの多くは、登録している住宅会社や工務店にお客様を紹介し、その紹介料を受け取る仕組みになっています。つまり、表向きは無料相談でも、実際にはその紹介料が住宅会社の見積もりに上乗せされていないとは限りません。結果的に建物本体にかけられる予算が減ってしまう可能性があります。また、紹介可能な会社の中からしか選べないため、選択肢が偏りやすいというデメリットもあります。 一方で、建築設計事務所はもっと自由で開かれた場所です。敷居が高く感じられるかもしれませんが、相談だけであれば無料で対応している事務所も多く、「気難しい建築家」というイメージも、今ではだいぶ昔の話になりました。また、ハウスメーカーや工務店との家づくりでは担当者との相性は運任せです。「担当者ガチャ」という言葉もあるそうですが、建築家の場合は担当スタッフがいるとしても、お客様とのやり取りの中心は建築家本人になります。そうであれば、無料相談やラフ提案の段階で相性の良し悪しを試すことができますので、運任せではなく、ご自身の意思によって選択することができます。 具体的な要望が決まっていなくても大丈夫です。「こんな暮らし方をしてみたい」「土地を見てもらいたい」など、漠然とした段階から話し始めても構いません。家づくりは、相談の瞬間からすでに始まっています。 どうか、仕組みが複雑で見えにくいサービスに惑わされず、自分たちに合ったペースで、納得できるかたちの家づくりを進めてください。もし迷ったときは、建築家に直接声をかけてみるのが一番の近道です。

いろのいろいろ

先日、建築家仲間4名で主催している建築レクチャーイベントを開催した。ゲストはULTRA STUDIOの笹田さん。このイベントでは珍しい東京拠点の建築家だ。ULTRA STUDIOの建築は、部位を幾何形態に乗せてデフォルメしたような構成と、練られた色使いが特徴である。注目度の高いユニットということもあり、参加者も多く、会場からの質疑応答もいつも以上に熱を帯びた。そこで質問に上がったのはやはり「色」の話。 さて、色である。建築家にとって色を操ることは難しい。部屋の広さ、天井の高さ、素材の選択、窓の位置……建築のありとあらゆる部分を決定する際、設計者はその一つ一つに合理的な理由を与えていく。それは建築が設計者の創作物でありながら、所有者はクライアントであることが大きな理由だろう。合意を積み重ねるためには、納得のいく理由を添えることが不可欠である。だから設計は合理で進む。だが色はそうはいかない。合理的な説明も可能ではある(汚れを目立たせるために白を選ぶ、など)が、多くの場合、色は趣味の領域に属し、「何となく、いい」で決まる。そこが建築家を悩ませる。 加えて、建築の色は固定されない。昼間と夕焼けでは違って見えるし、絵画のように適切な光を前提にすることもできない。建築は背景であり、じっと凝視されるものではない。そもそも、私の見ている色とあなたの見ている色が同じとは限らない。 そういう訳で、色を決める際には周辺環境の色味をピックアップするという手法もよく用いられる。周囲に合わせることは間違いではないというわけだ。なぜか。これは近代化で失われた「集落のあるべき姿」への慕情ではないか。かつては身近な材料で建てざるを得なかったから、自然と同じような形、同じような色の建物が並んだ。近代化によって材料は遠くから運ばれるようになり、勝手に似てしまうことはなくなった。意識的に合わせに行かない限り。私はこの設計態度を「微分・積分建築」と呼んでいるが、その根には、名もなき古典への眼差しがあるのだと思う。 現在進めている社員寮プロジェクトでも、色は悩ましい問題だ。無難に無彩色でまとめることもできる。だが屋内に露出する2.7メートルピッチの柱梁を黄色に塗ろうと考えている。奥行きの長い空間に並ぶ構造体を強調し、リズムを与え、5.4メートル間隔で繰り返す要素――キッチンやサイドボード――と和音のように響かせたいのだ。 「白って200色あんねん。」 色を扱うことの難しさは、その果てしなさにある。

建築の真価はどこにあるのか

先日、JIA主催のトークイベントに参加しました。登壇したのは、大阪・関西万博の施設を設計した若手建築家たちです。開始から第2部の最初の質問、その後の議論まで拝聴しましたが、家の用事があり途中で失礼しました。それでも多くの示唆を得る時間になりました。 会場から出た印象的な問いかけのひとつに、「建築家の理論が伝わっていないのでは」というものがありました。私には、それは結局「建築の真価はどこにあるのか」という根源的な問いかけのように思えました。 登壇者からは「万博協会から発信を止められていた」とか「感じ取ってもらえればよい」といった意見が出ていましたが、私はやはり、建築の理念は空間そのもので達成されるべきではないか、と考えさせられました。プレゼンテーションを見る限りでは、建築家が「良きことげなストーリー」で共感を得なければならないと告白しているようにも感じられ、言葉にしないと建築の真価が伝わらないという現象は、現代的でとても興味深いと思いました。 さらに考えさせられたのは、ストーリーの位置づけです。提案時と実際に建った建築が全く異なり、残っているのはストーリーのみという方もいらっしゃいました。大企業が社会貢献を「守り」のストーリーとして掲げるのに対し、建築界では「攻め」の手段としてストーリーを紡いでいます。その背景には「創作にはアリバイが必要」という時代の空気があるのかもしれません。会場からの問いかけが、こうしたテーマを引き出すきっかけになっていました。 今回の議論を通じて、建築とストーリーの関係についてあらためて深く考える機会をいただきました。建築にとっての「真価」はどこにあるのか——これはこれからも探っていきたいテーマです。

「緑のモジャモジャ」でも「半沢直樹」でもない家づくり

まったく余計なお世話なのだが、インスタグラムを眺めていると、スレッズで話題の投稿が「おすすめ」として表示される。その中でよく目にするのが、現場や図面の写真に「こんなひどいことになっています。これで正しいのでしょうか?」と添えられた投稿だ。コメント欄には「それはひどいですね!」「左側の亀裂のほうがもっと心配です」といった、不安をあおるような言葉が並んでいる。 多くの人にとって家づくりは一生に一度の経験である。何も分からないまま、ショッピングモールの緑色のカウンターで相談し、そのまま勧められるままにハウスメーカーと契約する。現代の日本では、それがむしろスタンダードなのだろう。建築家に依頼するのは敷居が高く、そもそも誰に頼めばいいのか分からない。これは建築家の発信力の弱さ、怠慢でもあり、大いに反省すべきところだと思う。もちろん、ハウスメーカーで親切な担当者に出会い、満足のいく家を建てられる方も多いだろう。けれど、スレッズに悩みを投稿する人たちは、そうではなかったのだ。 ハウスメーカーとの家づくりの難しさは、クライアントがプロと直接やり取りしなければならないことだ。気軽に頼れる味方がいないまま、孤独な施主はスレッズにいる「どこかの誰か」に悩みを打ち明ける。本当に気の毒な状況である。そして、顔も知らない誰かからアドバイスを受けるのだが、それが信頼できる内容なのかは分からない。結局、堂々巡りになってしまう。 建築設計事務所と家づくりをする場合、施主は設計者と「設計監理契約」を、施工者とは「工事請負契約」を結ぶ。設計と施工は利害関係を持たないため、設計者は純粋に施主の味方・アドバイザーとして、図面や現場のチェックを行う。少し例えるなら、裁判における弁護士のような役割だ。施主の要望や不安に寄り添い、施工者との間に入って調整することができるから、匿名の誰かに頼る必要はない。 インスタを開くたびにこうした悩み相談を見ると、孤独に家づくりをしている人が多いことを実感し、胸が痛む。だからこそ、これから家づくりを考えている人には「緑のモジャモジャ」や「巨大な半沢直樹」ではない、別の選択肢があることを知ってほしい。そのためにも、私はこれからもコツコツとブログを更新してまいります。

「こたけ正義感」を見て、知らない世界をのぞいた話

最近、こたけ正義感さんのラジオやYouTubeをよく聞いています。お名前は知っていたのですが、先日、とある動画で来歴を知って、ぐっと興味が湧きました。現役の弁護士でありながら、芸人としても活動しているという、少し珍しい存在です。強いバックグラウンドを持つ人の話は、やはり引き込まれます。 自分はずっと建築一本でやってきたので、まったく違う世界に飛び込んでいる人を見ると、素直にすごいなと感じます。思いつきではなく、「どう動けばよいか」を考えながら行動している。その姿勢は芸人として遅めのスタートであるという自覚から来ている部分もあると思いますが、建築家として生きていくことと向き合う自分の姿とも、どこか重なる気がします。 弁護士や法曹界の話も自然に出てくるので、普段はまったく接点のない世界を、少しのぞけるのも面白いですよ。とくに身構える必要もなく、日常の延長として知らない世界の空気に触れられるのが魅力ですね。 個人的に一番印象に残ったのは、芸人になったきっかけの話。奥さんに「そんなにお笑いが好きなら、芸人になったら?」と言われて、その場で養成所に申し込んだそうです。実は奥さん自身もお笑い好きで、学生時代の将来の夢が「芸人と結婚すること」。夫を芸人にすることで、事後的に夢を叶えたという、信じがたいような、でも微笑ましいエピソードでした。 努力してきた人は、やっぱり面白いですね。自分とはまったく違う道を歩いているからこそ、そこから得られる刺激があるのだと思います。違う世界の人の話を聞くことで、自分の立ち位置や視点も、少しだけほぐれる気がしました。

講評会の季節

暑さのピークを迎える頃、大学では講評会の季節がやってくる。 今年は、武庫川女子大学と大阪産業大学にゲストクリティークとして参加した。前者では二つの住宅課題を、後者ではオフィスビル課題について、学生のプレゼンテーションを聞き、質問やコメントを返す。うまく切り返せる学生もいれば、フリーズしてしまう学生も。そんな時には助け舟を出す。私が学生の頃、講評会は吊し上げのような時間だったが、今どきのあり方はとてもいい雰囲気になっているなと思う。 大学ごとに特色があり、課題の設定や学生のアウトプットも異なる。複数の大学に立ち会えると、その違いがより際立って見えてきて、とても面白い。 では、自分がどんなことに着目してコメントしていたかというと、案外、どこでも似たようなことを伝えていた気がする。発表時間が1〜3分と短いこともあるかもしれないが、間取りの細かい話にはあまり触れず、敷地やその周辺環境に対して建築がどのような構えをとっているのか、という点を中心に講評していたことに気づいた。 もっと敷地をダイナミックに使ってもよいのではないかとか、住人や利用者を迎える街との境界は、もう少しおおらかに開いてもいいのでは、といった具合である。 建築の持つ力のひとつに、人と環境の関係を規定するということがある。建築は環境を取捨選択し、人に空間を提供する。その価値観の多くは設計者に委ねられている。もちろん施主の存在は大きく、設計者はその人の代理であると同時に、依代のようなものだとも言えるかも知れない。村野藤吾が「99%を聞き、1%に託す」と語っている。施主と徹底的に話し合って設計しても、最後の1%には建築家としての判断が残る。その1%にこそ意味がある、と私は思う。 学生の提案は図面と模型、そしてCGによって表現されている。細かな間取りの良し悪しは、これからいくらでも調整できるだろう。でも、人や地域や環境に対する構え──つまり、大きなデザインの方向性は、小手先では変えられない。だから、自然とそこにコメントが集中したのだろう。 学生に語っているようで、半分は自分への戒めのような時間。偉そうなことを言って本当に実践できているのか、と。明日から襟を正し、猫背を伸ばして姿勢良く、パソコンに向かうことにいたします。

引き出し

「いい空間をつくるにはどうしたらいいんですか」非常勤講師を務める大学の学生にこう聞かれた。「空間の体験を重ねて、それをいつでも使えるように引き出しにしまっておくことだよ」わたしは(ドヤ顔で)答えた。 この答え、実は受け売りである。ちょうど通勤電車に揺られながら読んでいた本にホラー小説の巨匠 スティーブン・キングのエピソードがあったのだ。ある日、スティーブン少年は叔父のオーレンと共に家の裏にある網戸を修理に向かった。オーレンは大きな道具箱を片手に家の裏手へ回る。作業は簡単に終わり、使った道具といえばドライバー一本であった。スティーブン少年はオーレンに尋ねる。ドライバーだけで済むなら、なぜこんなに大きくて重たい道具箱を持ってきたのか、と。 「ああ。でもなスティーヴィ」叔父は屈み込んで道具箱の取っ手を掴みながら言った。「何があるか、ここへ来てみなきゃあわからないからな。だから、道具はいつも、全部持っていた方がいい。そうしないと、思ってもいなかったことに出っくわして弱ったりするんだ」 存分に力を発揮して文章を書くためには、自分で道具箱を拵えて、それを持ち運ぶ筋肉を鍛えることである。(スティーブン・キング『小説作法』) このエピソードを読んだとき、「文章」を「建築」に置き換えても同じことが言えると思った。世の中に完全なオリジナリティはなく、新しく見えるものも実は既存の形や概念を組み合わせたり、ずらしたり、つまり編集することによって生み出されているとわたしは考えている。自分の引き出しの中身が少なければ、その組み合わせは貧弱なものになる。一方、引き出しにたくさんの道具があれば、言うまでもなく豊かなアイデアにつながる。 小説家にとっての道具が「言葉」だとすれば、建築家にとっては、「空間の体験」がそれにあたる。何も歴史的建造物や有名建築ばかりだけではない。日々の中で出会う、なんだか落ち着くベンチの配置やつい座りたくなる段差、早く立ち去りたいと思わせるお店の雰囲気など。こうした何気ない経験を引き出しにそっとしまっておく。わたしの場合、祖父母の家にあった広縁に置かれた一対のソファや心地よい風が通り抜ける実家の団地の階段が、幼い頃の思い出と共に心地よかった空間としてストックされている。 もし読者の中に建築を建てようと考えている方がいれば、建築家に「自分にとって心地よい空間」について語ってほしい。きっとそこから着想を得て、あなただけの特別な空間を構想してくれることだろう。

architecture lecture series | 1/1 #1

昨年から建築家仲間と企画・運営しております「architecture lecture series」ですが、2025年度は「1/1」と題しまして、1作品を1時間かけて語るシリーズです。 第1回目のゲストはMIDWの服部大祐さんに登壇していただきます。皆様のご参加をお待ちしています。・日 時:2025.6.14 sat    講演会14:00-15:30 懇親会15:30-16:30場 所:POND (近鉄奈良線「菖蒲池駅」すぐ)    奈良市あやめ池南6-1-7入場料:1,000円(学生500円)予 約:不要(直接会場までお越しください)

パビリオン@この街のクリエイター博覧会2025

先週末は「この街のクリエイター博覧会 2025」に参加しました。 せっかくの博覧会ですので“パビリオン”を建てたのですが、資材の高騰や円安の影響もあって建設費が6,000円を超える高額になり、SNSなどで炎上しないか心配しています。 展示したのは「OQ」というDIYできる応急屋台です。コロナ禍の当時、飲食店が店先でお弁当を販売することがありましたが、既製品の屋台がとても高いので、ホームセンターで手に入る材料で、誰でも簡単に組み立てられる屋台を考案し、作り方をWEBで無償公開しておりました。 今回は倉庫から応急屋台を引っ張り出しまして、会場内に建設しました。久しぶりでしたので5年前に比べておよそ1.5倍の工期がかかり、開幕に間に合わないのではとマスコミを賑わせそうになりましたが、なんとか25分で組み立てることができました。 ご来場いただいた方には面白がっていただき、期間限定で製作マニュアルを公開したところたくさんの方にダウンロードしていただきました。 ご来場くださった皆様、ありがとうございました!また、企画運営してくださったメビックやトーガシの皆様、一緒に会場を盛り上げてくださった出展者の皆様、お疲れさまでした◎貴重な機会に感謝です!

「この街のクリエイター博覧会2025」出展のお知らせ

今週金曜日、土曜日にマイドーム大阪で開催されます「この街のクリエイター博覧会2025」に出展いたします。 「OQ」の実物を展示予定です。お時間・ご興味ありましたらぜひお立ち寄りください。 なお、入場は無料ですが、事前申し込みが必要となります。詳しくは以下の概要をご確認ください。<イベント概要>…………………………………………………………………………この街のクリエイター博覧会2025大阪のクリエイティブパワーを世界へ発信!…………………………………………………………………………◇開催日時:2025年6月6日(金)14:00-18:00      2025年6月7日(土)10:00-17:00◇会場:マイドームおおさか 2階・3階 展示ホール◇入場料:無料(要事前来場登録)◇詳細:https://www.mebic.com/event/2025-06-06.html◇来場登録(Peatix):https://konokurihaku2025.peatix.com/