【月イチ エッセイ】アトラトル
アトラトル(Atlatl)は、先史時代に使われていた槍投げ用の道具だ。
槍の後端を引っかけて振り出すことで、腕の長さを延長したような効果を生み、少ない力でも槍を速く、遠くへ投げることができる。人の身体能力を拡張し、投擲の精度と到達距離を大きく高めた、シンプルながら本質的な道具である。
建築家仲間4名で主催している建築レクチャーイベントの、今年度の最終回を開催した。幹事が持ち回りでゲストをお呼びし、1作品を1時間かけてじっくり話してもらうというもので、大トリにはランチ!アーキテクツの和田寛司さんをお迎えした。
和田さんは設計だけでなく施工も行う建築家で、3年かけて完成したご自邸「KPD」には、内覧会にもお邪魔させていただいたことがある。
設計施工というと大手ゼネコンをイメージしたり、大工の棟梁が家を建てていた時代のことを思い浮かべたりするが、和田さんの取り組みは全く別の枠組みのように思えた。
彼は職人と素人の間にいる、セミプロ(職人でもあり、別分野のプロでもある)たちとの協働の中で建築を立ち上げている。KPDでは、ご自身以外の施工者には図面を見せずに、対話から空間を創造したという。いわゆる建築教育を受けていないセミプロたちが肌で感じた空間性が和田さんに宿り、設計と工事が同時に進んでいくのだ。
このレクチャーを聞いていて、アトラトルを思い出した。
自分の身体だけでは届かない距離に槍を投げるための道具だが、どこか身体の延長のようにも思える。和田さんの取り組みは、セミプロ達が参加することで、建築家の手足が長く伸び、見えないものが見えるように、届かないところまで手が届くようになっているのではないか。単なるコラボレーションとは異なる怪しさと魅力を感じる建築は、そうして生まれたのかと、内覧会での体験とつながった。
和田さんは怪談蒐集家という一面も持っている。KPDもKAPPA DIMENTIONの略だそうで、なるほど、確かにあの空間は河童たちにしか作れないだろう。
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